忘却と喪失。停滞と安寧。異端の言語感覚で綴られる、過ぎ去った日々の心象。 随筆。小説。詩。日記。変幻自在に境界を超える筆致が織りなす待望の随想集。 装画:つくみず 装丁:名久井直子 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 小さなころの夢は石になることで、いま夢みるのも石になること。 もの言わず、もったりと、ただそこにあるだけのものでありたい。 水と風に磨かれて、つやつやしたからだにひかりを溜めていたい。 ときどき拾われて、飾られたり投げられたりするのも、悪くない。 むきだしのみじめさを武器にも鎧にもしないで、そこにありたい。 『石の日』より ……きっと、何者にもなれない。そんな言葉を聞いて、煮物にもなれない、と思った。 何者にもなれない、という十の音のつらなりは、その九つを煮物にもなれないが占める。 『煮物にもなれない』より ことばはすべて、こころの翻訳だから、決して明かされない秘密を持っている。ちょうど湖の水を手にすくいとったとき、手の中の水はもう湖ではないように、そんなふうにしかことばをあつかうことはできないのだと、しずかにあきらめている。 『コンサバ』より 深淵をのぞくとき深淵もまたひとりぼっち。しーん。えーん。 『めそめそメソッド』より 神は細部に宿るのではなく、細部を見つめる視線に宿る。 それか、細部にすました耳に。こまやかさをこぼさないよう、ふるえる手つきの中に。 『ゴッホとズボン』より ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【目次】 瓶いっぱいのからっぽ とんかつ大臣 ゴンドラ龍 ゴンドラゴン カニにされた日 センセイと路地 育ちもしないがよく食べ眠る ツチノコとウマイコトイッタナ 迷子日和 石の日 一切の責任を負います スーパーマーケットという異界 ぼこぼこかまぼこ ぬいぐるみは役に立たないから めそめそメソッド ゴッホとズボン いなくなったエビ 穴のない靴下は存在しない 静けさをおそれないこと 煮物にもなれない 犬を棒に当てる 人生禁止おじさん むいが来たりてむいと鳴く コンサバ 月 日
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