本書は、Murray N. Rothbard, What Has Government Done What Has Government Done to Our Money?, fifth edition, Ludwig von Mises Instituteの日本語訳である。本書でロスバードは、ミーゼスの理論を受け継いで貨幣理論を展開する。貨幣は元々市場において価値のある財が交換媒体として自発的に使われたものである。にもかかわらず現在のほとんどの国の政府は無価値の「偽造」紙幣を発行し、人々の財産を奪っている。そしてより多くの財産を奪うには紙幣を増刷すればいいので、どの国もインフレに向かう傾向があるのだ。ロスバードはもちろん法定不換紙幣を否定し、自由な市場に貨幣を委ねるよう主張する。本書は「1.序論」、「2.自由社会における貨幣」、「3.政府の貨幣への干渉」、「4.欧米の金融崩壊」の4部構成になっている。ロスバードは2で、物々交換から始めて貨幣の発生、そして貨幣倉庫(銀行)の出現までと、部分準備銀行の問題について説明している。自由社会では金本位制が必然である。交換においてまず重要な事は、交換をしようとしている双方が持っている財の価値が等しいから、交換が行われるのではないという事だ。互いに相手の持っている財を高く評価するから交換が行われるのである(いわゆる「等価交換」というものはない)。以下、かいつまんで言うと、直接交換の不便さを解消するために、交換が間接交換に移行し、交換媒体として金や銀が使われるようになり、それが貨幣となる。更に金貨や銀貨を持ち歩く不便さやリスクを回避するために貨幣倉庫が出現し、倉庫受領書が貨幣の代替物として使われるようになる。そして貨幣倉庫が銀行になり、倉庫受領書が紙幣になる。倉庫業者が偽の受領書を発行したり、預かった金貨や銀貨を流用したりするのは詐欺であるが、それを合法的に行っているのが部分準備銀行であって、このために生じる通貨の膨張が物価インフレーションにつながる。しかし自由社会では部分準備銀行によるインフレーションを抑える仕組みが備わっている。次にロスバードは3で、自由社会に政府が登場すると、自由社会の貨幣制度がどのように変わるかを説明する。一言で言うと、政府は貨幣の鋳造権を独占したり中央銀行を設立したりして、自由社会に存在していたインフレーションを抑制する仕組みを取り除き、金本位制を廃止して、政府と中央銀行による貨幣の管理を可能にするのだ。4は本書の初版(1963年)にはなく、後の版で追加された。19世紀の金本位制からニクソン・ショックを経て現在の変動法定通貨制度に至るまでの歴史を具体的に説明している。4における最終段階が、1973年から現在まで続く法定不換紙幣の変動相場制だ。しかしこの段階もそろそろ終わりに近づいているのではなかろうか。我々はロスバードの提言を受け入れるべきだと思う。
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